会社法が定める役員責任とD&O保険の関係

役員賠償責任保険

取締役や役員が負う賠償責任について、あなたはどの程度理解していますか?近年、企業の役員が直面するリスクは増加しており、その対策としてD&O保険の重要性が高まっています。

上場会社の9割以上がD&O保険を締結しており、これは役員の賠償責任リスクを軽減するための重要な手段となっています1。特に中小企業では、法務部門や顧問弁護士がいないことが多く、役員の損害賠償責任リスクが高い状況です1

D&O保険の加入手続きは、取締役会または株主総会の決議が必要とされています1。また、公開会社は事業報告にD&O保険の内容を記載する義務があります1。これらの規定は、役員の責任を明確にし、企業の健全な運営を支える役割を果たしています。

会社法改正と役員責任の背景

令和元年の会社法改正は、役員の責任範囲を再定義し、企業運営の透明性を高めることを目的としていました。この改正は、社会経済情勢の変化に対応するために実施され、役員の賠償責任リスクを明確にするための重要な一歩となりました2

改正の経緯と目的

2019年の改正では、役員等賠償責任保険契約に関する新たな規定が設けられました。これにより、保険契約の内容を決定する際には、株主総会または取締役会の決議が必要とされました2。この改正は、役員の責任を明確にし、企業の健全な運営を支えるための措置として導入されました。

また、上場会社を中心に役員等賠償責任保険契約(D&O保険)が広く普及しており、これが役員の賠償責任リスクを軽減する重要な手段となっています2。特に中小企業では、法務部門や顧問弁護士がいないことが多く、役員の損害賠償責任リスクが高い状況です。

社会経済情勢の変化に伴う必要性

経済環境や社会の変化が、役員責任の再検討につながりました。例えば、株主代表訴訟の手数料引き下げや、企業の透明性に対する要求の高まりが、改正の背景にあります3。これらの変化に対応するため、役員の責任範囲や保険契約の内容が再定義されました。

さらに、改正前後の制度の違いを理解することが重要です。改正前は、役員の賠償責任リスクが不明確な部分がありましたが、改正後はその範囲が明確化され、企業の運営がより透明になりました2

項目 改正前 改正後
役員の責任範囲 不明確 明確化
保険契約の決定 取締役会のみ 株主総会または取締役会
情報開示 限定的 詳細化

この改正は、株主や投資家の視点からも意義があります。役員の責任が明確化されることで、企業の信頼性が向上し、投資環境の改善につながることが期待されています4

会社役員賠償責任保険(D&O保険)の概要

企業の役員が抱えるリスクをカバーするD&O保険について、その基本を解説します。近年、役員の賠償責任リスクが増加しており、この保険の重要性が高まっています5

D&O保険とは何か

D&O保険(会社役員賠償責任保険)は、役員が業務遂行中に損害賠償請求を受けた際に保険金が支払われるものです。これにより、役員個人のリスクを法人が保護することができます5

特に、株主代表訴訟や第三者からの訴訟が増加している現代において、役員の賠償責任リスクを軽減するための重要な手段となっています。

主な補償内容と対象範囲

D&O保険の補償範囲は以下の通りです:

  • 損害賠償金:役員が敗訴した場合の賠償金をカバーします。
  • 争訟費用:訴訟や弁護士費用を補填します。
  • 和解金:訴訟が和解に至った場合の費用も対象です。

これらの補償は、役員が業務中に発生したリスクに対して適用されます6

また、保険契約の締結には取締役会の承認が必要であり、上場企業ではその内容を事業報告に記載する義務があります。詳細については、こちらをご覧ください。

会社法 d&o保険:保険契約の決議手続き

D&O保険の契約締結において、株主総会や取締役会の決議がなぜ必須なのか、その背景を探ります。改正会社法430条の3により、これらの決議が明確に規定され、企業の透明性が向上しました7

株主総会や取締役会の決議の重要性

D&O保険の契約締結には、株主総会または取締役会の決議が必要です。これは、役員の賠償責任リスクを適切に管理し、企業の健全な運営を支えるためです7。特に、上場会社ではこの手続きが義務付けられています。

決議を行うことで、保険契約の内容や保険料の負担について透明性が確保されます。また、株主や投資家の信頼を得るためにも、このプロセスは重要です8

決議手続きの具体的手順

決議手続きは以下のステップで進められます:

  • 議題設定:保険契約の内容や必要性を説明します。
  • 決議採択:株主総会または取締役会で投票を行います。
  • 報告義務:決議内容を事業報告に記載します7

これらの手順は、改正会社法で明文化されており、企業の運営をより透明にする役割を果たしています8

実務上、決議手続きを適切に行うことで、役員のリスク管理が強化されます。また、企業の信頼性向上にもつながるため、このプロセスは欠かせません。

毎年更新されるD&O保険の契約手続き

D&O保険の更新手続きは、企業のリスク管理において重要な役割を果たしています。特に、役員の賠償責任リスクを軽減するため、毎年の更新が必須とされています9。この手続きは、企業の健全な運営を支えるための重要なプロセスです。

更新時に必要な株主総会の役割

D&O保険の更新手続きにおいて、株主総会の役割は非常に重要です。改正会社法により、保険契約の内容を決定する際には、株主総会または取締役会の決議が必要とされています10。これにより、保険料の負担や補償範囲について透明性が確保されます。

具体的には、以下のステップで進められます:

  • 議題設定:保険契約の内容や必要性を説明します。
  • 決議採択:株主総会または取締役会で投票を行います。
  • 報告義務:決議内容を事業報告に記載します9

更新契約に伴う留意点

D&O保険の更新手続きには、いくつかの留意点があります。まず、保険契約の内容を変更する場合、再度の決議が必要です10。また、被保険者に異動があった場合も、決議を経る必要があります。

さらに、保険料全額を会社が負担する仕組みについても理解しておくことが重要です。これにより、役員の個人負担がなくなり、税務上も非課税とされます11。詳細については、こちらをご覧ください。

これらの手続きを適切に行うことで、役員のリスク管理が強化され、企業の信頼性向上にもつながります。また、D&O保険の契約手続きについてさらに詳しく知りたい方は、参考にしてください。

取締役の責任と賠償リスクの所在

取締役の責任範囲と賠償リスクについて、企業運営において重要な課題となっています。特に、役員が会社や第三者に対して負う法的責任は、企業の健全な運営を左右する要素です。

会社に対する法的責任

取締役は、会社に対して善管注意義務を負っています。この義務に違反した場合、役員は会社に対して損害賠償責任を問われる可能性があります。例えば、製造業T社の役員4名に対して約1億5800万円の損害賠償が命じられた事例があります6

また、任務懈怠に基づく損害賠償責任の発生条件は、役員の過失や不適切な判断が明らかである場合です。株主代表訴訟は一審だけで約7年8カ月かかることもあり、長期化するケースが多いです6

第三者に対する賠償リスク

取締役は、第三者に対しても賠償責任を負うことがあります。例えば、株主や取引先からの訴訟がその一例です。F社株主代表訴訟では、元代表取締役が約17億円の損害賠償を命じられました6

第三者に対する賠償リスクを軽減するため、D&O保険が重要な役割を果たします。この保険は、役員が被った損害を補償し、企業のリスク管理を強化します12

さらに、会社法上の責任免除制度も活用できます。株主総会の決議によって、役員の責任を免除することが可能です。詳細については、こちらをご覧ください。

D&O保険における情報開示とその重要性

企業の透明性を高めるため、D&O保険の情報開示が重要な役割を果たしています。改正会社法により、役員等賠償責任保険契約に関する情報開示が義務化され、企業の信頼性向上に寄与しています13

D&O保険情報開示

法定情報開示の義務

改正会社法430条の3第1項では、役員等賠償責任保険契約の内容決定には取締役会の決議が必要とされています13。また、公開会社は保険契約の詳細を事業報告に記載する義務があります。これにより、被保険者の範囲や保険料の負担割合が明確化されます。

具体的な開示事項には、保険事故の概要や職務執行の適正性を損なわないための措置が含まれます13。これらの情報は、株主や投資家にとって重要な判断材料となります。

開示内容と企業の透明性確保

D&O保険の情報開示は、企業の透明性を高めるための重要な手段です。事業報告や株主総会参考書類に記載される内容は、以下の通りです:

  • 被保険者の範囲
  • 保険料の負担割合
  • 補償内容の概要

これらの情報を適切に開示することで、企業のガバナンスが強化され、株主や投資家の信頼を得ることができます14

さらに、東京海上日動火災保険株式会社の調査によると、上場企業の約80%がD&O保険に加入しており、情報開示の重要性が高まっています15

税務上の取扱いと会社の保険料負担

企業がD&O保険料を負担する際の税務上のメリットについて、詳しく解説します。特に、役員個人への給与課税が免除される仕組みやその法的根拠を明らかにします。

保険料負担時の税務上のメリット

会社がD&O保険料を負担する場合、役員個人に対する給与課税は不要とされています13。これは、経済産業省および国税庁の見解に基づくもので、役員の経済的利益が生じないと判断されるためです。

具体的には、取締役会の承認や社外取締役の同意を得ることで、保険料の負担が適切に管理されます5。これにより、役員のリスク管理が強化され、企業の健全な運営が促進されます。

「会社が保険料を負担する場合、役員個人への給与課税は行う必要がない。」

経済産業省

役員個人への給与課税が非課税となる理由

役員個人への給与課税が免除される理由は、保険料の負担が会社の経費として認められるためです13。また、役員が直接保険料を負担しないため、経済的利益が生じないと見なされます。

さらに、国税庁の回答によると、取締役会の決議を経た場合、役員に対する課税は不要とされています5。この仕組みは、役員のリスクを軽減し、企業のガバナンスを強化する役割を果たしています。

詳細については、D&O保険の税務上のメリットをご覧ください。

社団法人・財団法人及び医療法人における新規定

令和元年の改正により、社団法人、財団法人、医療法人にも新たな規定が適用されることとなりました。これらの法人における役員等の賠償責任リスクを管理するため、D&O保険の重要性がさらに高まっています16

各法人への適用範囲と手続きの違い

社団法人、財団法人、医療法人それぞれに対して、改正規定の適用範囲や手続きに違いがあります。例えば、医療法人では社員総会資料の電子提供制度が新設され、情報開示の透明性が向上しました16

また、役員に対する補償契約や保険契約に関する規定も新設され、各法人での決議方法や情報開示の要件が明確化されています。特に、医療法人では計算書類の公告義務が見直され、手続きが簡素化されました16

実務上の留意点と今後の課題

新規定の施行に伴い、実務上の留意点も多く存在します。例えば、社団法人や財団法人では、被保険者の範囲や保険料の負担割合について、詳細な決議が必要です17

さらに、医療法人では、役員等の賠償責任リスクを軽減するため、保険契約の内容を適切に管理することが求められます。今後は、各法人でのリスク管理の実情に基づいたアドバイスが重要となるでしょう16

新規定の施行により、企業の透明性が向上し、役員の責任範囲が明確化されることが期待されています。しかし、実務上の課題や今後の対応策についても、継続的な検討が必要です17

結論

役員の賠償責任リスクを軽減するためのD&O保険の重要性は、企業運営においてますます高まっています。この保険は、取締役会や株主総会の決議を通じて適切に管理され、企業の透明性を高める役割を果たしています18

税務上のメリットも大きく、保険料を会社が負担することで役員個人の負担が軽減されます。これにより、企業の健全な運営が促進され、リスク管理が強化されます19

今後の法改正や実務動向にも注目が必要です。透明性の向上や役員の責任範囲の明確化は、企業の信頼性を高める重要な要素となります。詳細については、取締役の責任についてさらに詳しく知ることができます。

FAQ

Q: 会社法改正の背景は何ですか?

A: 会社法改正は、社会経済情勢の変化に対応し、企業の透明性と役員の責任を明確にするために行われました。これにより、役員の賠償リスクが増加し、D&O保険の重要性が高まっています。

Q: D&O保険の主な補償内容は何ですか?

A: D&O保険は、役員が業務遂行中に発生した賠償責任をカバーします。具体的には、会社や第三者に対する損害賠償請求や訴訟費用などが含まれます。

Q: 保険契約の決議手続きはどのように行われますか?

A: 保険契約の締結や更新には、株主総会や取締役会での決議が必要です。これにより、契約内容や保険料が適切に承認されます。

Q: D&O保険の更新時に注意すべき点は何ですか?

A: 更新時には、保険内容の見直しや保険料の確認が重要です。また、株主総会での承認を得ることで、透明性を確保します。

Q: 取締役の賠償リスクはどのようなものですか?

A: 取締役は、会社や第三者に対して法的責任を負う場合があります。これには、業務上の過失や法令違反による損害賠償が含まれます。

Q: D&O保険における情報開示の重要性は何ですか?

A: 情報開示は、企業の透明性を高め、株主や投資家の信頼を得るために重要です。法定情報開示の義務を遵守することで、リスク管理が強化されます。

Q: 保険料の税務上のメリットは何ですか?

A: 保険料は会社の経費として計上でき、税務上のメリットがあります。また、役員個人への給与課税が非課税となるため、負担が軽減されます。

Q: 社団法人や財団法人におけるD&O保険の適用範囲は?

A: 社団法人や財団法人でもD&O保険は適用されますが、手続きや適用範囲が異なる場合があります。実務上の留意点を確認し、適切な保険契約を結ぶことが重要です。

ソースリンク

  1. 役員等賠償責任保険(D&O保険)とは – 中堅~大手会社のための会社法・労働法・契約審査 | 吉田総合法律事務所 – https://ylo-corporatelaw.com/corporate/director/dando/
  2. 役員等賠償責任保険契約とは?会社法改正後の手続きや会社補償との違いを解説 | モノリス法律事務所 – https://monolith.law/corporate/directors-liability-insurance-contract
  3. PDF – https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/research-group/nlsgeu000005c5wc-att/20201127_1.pdf
  4. AIG損保 Corporate Web Seminar – AIG損保 – https://www-513.aig.co.jp/public/seminar/view/1978
  5. 経済月報2017年4月号_最終.indd – https://www.tsukubabank.co.jp/corporate/info/monthlyreport/pdf/2017/04/201704_10.pdf
  6. 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の免責条項と会社補償について – https://www.wtwco.com/ja-jp/insights/2024/02/disclaimer-and-company-indemnification-for-company-directors-and-officers-liability-insurance
  7. PDF – https://www.amt-law.com/asset/pdf/bulletins1_pdf/230705.pdf
  8. 【会社法コラム】D&O保険(役員等賠償責任保険)と会社補償契約:施行前後で確認すべきPoint(2022.02.09) | 隼あすか法律事務所 – https://www.halaw.jp/column/20220209/
  9. 【令和元年改正会社法特集】改正会社法施行前後で検討・対応すべき事項のまとめ(役員等賠償責任保険) | ブログ | Our Eyes | TMI総合法律事務所 – https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2021/12230.html
  10. 令和元年会社法改正 ~役員等賠償責任保険契約~ | 技術ベンチャー.COM|技術法務のご相談なら弁護士法人内田・鮫島法律事務所 – https://www.gijutsu-venture.com/archives/1742
  11. PowerPoint プレゼンテーション – https://www.westlawjapan.com/pdf/handout/210127.pdf
  12. 会社役員のリスクとD&O保険 – https://www.wtwco.com/ja-jp/solutions/services/directors-and-officers
  13. 会社法におけるD&O保険(役員賠償責任保険)の規律 取締役会決議と利益相反取引規制 – BUSINESS LAWYERS – https://www.businesslawyers.jp/practices/1367
  14. 改正会社法における役員等賠償責任保険契約の新規定。知っておきたいポイントを解説|D&O保険ガイド – https://yakuin-baiseki.jp/810/
  15. PDF – https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/221207_02.pdf
  16. PDF – https://www.hospital.or.jp/site/news/file/4598531318.pdf
  17. ●会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案 – https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20009011.htm
  18. PDF – https://www.jcia.or.jp/publication/pdf/hanrei_110.pdf
  19. PDF – https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/research-group/nlsgeu000005c5wc-att/20201127_2.pdf

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